「本」と「まち」の、ものがたり
しずけさとユーモアを
「めぐるせかい」 – センジュ出版、5周年に寄せて。

9月1日は、センジュ出版の誕生日だ。

2015年のこの日から続く5年間は、想像もできない日々の連続で、それまで知ることのなかった大きな希望と、知ることのなかった深い絶望とが絶え間なくどこからともなく届けられ、その贈り物のおかげで、この会社は5年の間に少し、視野が広がり、足腰が鍛えられ、懐具合は相変わらずなものの、精神的にタフになったような気がする。

そしてあと半年で丸5年が経とうという節目の年に目の前にやってきたのが、新型コロナウィルスだった。

絶望し尽くす

3月、私は緊急事態宣言下で絶望を抱えて立ちすくんだ。
お取引のある書店が軒並み一時閉店を余儀なくされ、センジュ出版の要でもあったイベント会場での対面書籍販売は不可に。

さて、9月に会社が6年目を迎えられるのかどうか、正直怪しかった。
そこで私は、経営者としてあるまじき行為に出ることにした。

「絶望し尽くす」
倒産の不安や恐怖から目を背けることなく、味わい尽くそう。そうすれば、次の感情がやってくるはず。その時が来たら、次の手を打とう。

結果この停止状態は2週間だったのだが、自分の中でリミットを決めていたわけではなく、今考えれば恐ろしい。半年だったり、1年だったりしたら、どうなっていたのだろう。でもこの時の私は、次に進むために立ち止まるということを、どうしても必要としていた。

2週間経って、「同じ倒産するならできることをすべてやってから絶望すればいい」という思考に自然と切り替わり、スタッフの力を借りて、これまで読者からいただいた感想を感謝と共にSNSでシェアし、通販サイトにオリジナルグッズ含めすべての商品を集約。

自身は、毎晩独学を重ねて最低限の配信機材を買い揃え、SNSで毎週、著者との対談を無料配信した。

すると、通販サイト、オンライン書店の売上が上がっただけでなく、全国各地の方々とオンラインでご挨拶する機会が増え、
そのうち、音頭をとってくださった書店さんのおかげもあって、各所でセンジュ出版の講演会を主催してくださる方がひとり、ふたりと現れた。

6月以降、気づけばオンラインや、オフラインとオンラインを共存させたハイブリッド型のトークイベントにお声がけいただく機会が増え、「話す」仕事のボリュームが広がりを見せることになった。


一方この間、自宅で過ごす時間が増えたこともあり、おもむろに自宅と事務所の断捨離が進んだ。
実は私は2010年、とある縁から始めることになった自宅の整理、整頓が思考の整理につながって、のちのセンジュ出版誕生に至っている。

なので、今回もどこかで確信があった。この整理整頓の先に、必要な何かがやってくる。

そう思いながら、不要になった物を感謝と共に手放し、さらには掃除にも力が入って磨けるところを磨き上げ、枯れていた植物を植え替え、自宅と事務所を草花がまた彩り始めた頃、テレビ番組の撮影が2本決まり、いつもは事務所だけだったのが、
今回は間借りしているブックスナックと自宅前にもカメラが入った。あちこち掃除していて本当によかった苦笑。

進めている書籍に関する資料含め、読書の時間も増えた。さらには社内外から自身の文章の発信を強く求められるようになった。なので、断捨離をもう一つ進めることを決めた。9月からセンジュ出版は月曜も定休とし、平日を火曜から金曜の営業とした。土日にトークイベントと自社のオンラインサービスとが毎週のように入り、自身のインプットの時間と執筆の時間、休息の時間を捻出することが目的だ。

「はたらく」と「くらす」の間

こうして身軽になってさらに少しスピードを落としたセンジュ出版の日々の中で、私は、「この会社を立ち上げたのはなぜだったか」「この会社はどんな方に必要とされてきたか」「この会社ができること、役に立てることは何か」をずっと考え続けた。

「はたらく」と「くらす」の間にありたいと立ち上げたこの会社は、売上のリズムに比べて支出に圧迫され、バランスが次第に「はたらく」に偏り始めていた。

会社のモットーであるユーモアが失われつつあったにもかかわらず、それでも、この会社に手を差し伸べてくれる方が現れ続けた。その方たちはみな、「センジュ出版に出会って自分は変わった」と口にした。センジュ出版はずっと、そうした人たちに守られていた。

だが、この会社がその人を変えたんじゃない。自分自身の手で、思い出しただけだ。本来の自分のことを。

おそらくセンジュ出版はそのリマインドが得意な会社なんだと思う。なぜなら、本がそうだから。書くこと、読むことが、編むことが、そうなのだから。

考えてみれば私自身、センジュ出版を思い出すようにして立ち上げた。

思い出すのは何のためかというと、目の前の人に優しくできるからだ。目の前の人に愛されるからだ。自分を思い出し肯定すると、目の前の人と通じ合い、すなわち世界が巡り始める。時間はかかるかもしれない。でもこれは確かなことだと教えてくれたのは、これまでご一緒した、目の前の著者と読者だ。

「人生の再編集」

これからのセンジュ出版は、このリマインドを「RE EDIT 101019」と名付け、関わる方の「人生の再編集」をこれまで以上にサポートしようと思う。
思えばセンジュ出版の手がける本も、イベントも、講義もすべて、「RE EDIT」に通じていく。

せかいがもっと、かけめぐりますように。

2020.9 センジュ出版 吉満明子